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『甘獄と青』Take21

 欠伸をして時計を見ると示している時間は夜の九時、そろそろ二人が寝着いた頃だろう。
「いよいよ明日か」
 誰にともなく呟き、指輪を見る。左の薬指に嵌っているのは青い宝石の輝く指輪、どの
ような理由かは分からないがサラさんが送ってきたものだ。何か特殊なプログラムが中に
あるのは『SHOPオリハマ』で見てもらったので分かったが、起動はさせていないので効果
は分からない。サラさんが最初に作ったオリジナルプログラムに近いと言われたが、それ
はそうだろう。何しろ本人が作ったものなのだから。今現在普及しているものと違って、
こちらのプログラム関係の資料は政府が封印しているらしいので、プログラムを見ただけ
では判断出来ないらしいのだ。送り主に聞けば分かると言われたが、そんなことを今訊く
訳にもいかないだろう。指輪に関するメッセージを添えてこなかったということは、そこ
の部分に意味がある筈なのだと思う。
 そして意味は、恐らく明日には分かる筈だ。
 そして、全てに決着がつく。
 思い返してみれば意外に短いものだが、日々の密度が濃かったせいだろう。知り合って
からまだ二ヶ月程しか経っておらず、一緒に過ごした期間といえば最初の一ヶ月だけだ。
それなのに大分昔から知り合っていたような気がするし、何十年も一緒に居たような気に
なっている。今の状況だって、夢なのではないかと思うことがあるのだ。
 いや、それは我儘か。
 明日のことで何もかもが終わってしまうと分かっているから、下らない夢のようなこと
を考えてしまうのだろう。だとすれば我儘ではなく、寧ろ逃避だということになる。
「駄目だ」
 これ以上考えていると、思考の渦から抜け出せなくなる。
 気分転換に何か飲もうと思い立ち上がると、控え目なノックの音が響いた。
「どうぞ」
 扉が開き、段ボールの箱を抱えたナナミが現れた。戦闘モードで持っていたのだろう、
軽そうに見えた箱だが床に降ろされると鈍く大きな音をたてた。何が入っているのか少し
気になったが、ナナミのスカートの裾が邪魔をしていて中身を知ることは出来ない。
「明日、ですね」
「そうだな」
 唐突にかけられた言葉だが、すぐに対応出来たのは先程同じことを考えていたからだ。
と言うか、考えない方が無理だろう。これまでの人生で一番の大舞台、これからもきっと
無いであろう出来事が待っているのだから。
「大丈夫、なのですか?」
 何が、ということは言ってこない。様々な意味を含めての疑問なのだろう。
「正直、辛いさ。まさか僕が世界の命運を握るとは思ってもみなかった」
 監獄都市に入った理由だって若い恋心と見栄が原因だったのだし、こんなことになった
直接的な原因も大したものではない。差別をせずに普通の人間として接して、愛情に飢え
乾いていたサラさんという個人に応えていただけだ。それが世界滅亡に繋がるなんて予想
出来る者など居ないだろうし、例に漏れず僕もそうだった。
 だからこんな状況になっているのは辛いものがあるけれど、
「でも後悔はしていない」
 これはそれぞれが生きてきた、その結果だと思っている。だからサラさんを哀れむ気も
なければ、蔑んだり嫌ったりする気も起きはしない。明日のことも、サラさんなりの一つ
の答えなのだと、そう思っている。だから後悔などしない、僕はそれに応えるだけだ。
 どうなるのかは分からない。
 けれど、どうするのかは決めている。
「青様、久し振りに悪い癖が出ておられます」
 ナナミは僕の前に立つと、瞳に強い光を宿して顔を覗き込んできた。
「何故、頼って下さらないのですか?」
 言われて、気付いた。
「何があろうとも私は必ず青様の隣に居ます。何百年も言い続けてきたことを今更止める
つもりはありませんし、感情を得たからといって変えるつもりもありません。青様が望む
から隣に居るのではなく、私がそう願うから隣に居るのです。だから頼って下さい、必要
なのだと仰って下さい。大事なときこそ、私に寄りかかって下さい」
 久し振りに聞いたナナミの長口舌は、意思のあるものだった。
 本当に、肝心なときに馬鹿をやっていると思う。再び一人で背負い込んでしまうところ
だった、今のナナミは完全に対等な立場で隣に居るというのに。個人的な性分だと言えば
否定は出来ないけれど、恋人に余計な気苦労や心配をさせる為にあるのではない。
「ごめんな」
「しかしそんなことを言っても、どうせまた一人で行くつもりだったのでしょう?」
 見抜かれていた。
「すまん」
 抱き締めて、髪を撫でる。
「ごまかされません。やはり、これを持ってきて正解でした」
 軽く一歩下がると、ナナミはテーブルの上に例の段ボール箱を置いた。開けられた中に
あるのは見慣れた紙の束、その枚数は八百以上だ。正確な枚数は覚えていないし、何かの
行事があったときにも作ったような気もするので、下手をしたら千枚を越えているのかも
しれない。意外と僕もまめな人間だったのだと思う。
「『奴隷券』、数にして千百二十一枚です」
 そんなにあったのか。
 ナナミはその内の一枚を手に取ると、千切りだした。ラミネート加工が外されている券
は軽い音をたてながら一瞬で小さくなり、放り投げられて空中に舞った。
「これで一回、私からの願いです。約束して下さい、絶対に私を置いていかないと」
 二枚目を手に取ると、やはり先程と同じように千切って放り投げた。
「二つ目です。約束して下さい、絶対に裏切らないと」
 三枚目。
「約束して下さい、最後まで嘘は吐かないと」
 四枚目。
「約束して下さい、独りにならないと」
 五枚六枚七枚と続き、ナナミの口からは様々な願いが吐き出される。券を千切るペース
は既に言葉の速度よりも遥かに高くなっているが、それはもう関係ないのだろう。ナナミ
はただ、僕と一緒に居たいと、独りきりにしないと、それだけを必死に吐き出している。
「約束、して下さい」
 視界を埋めるのは白。
 ナナミの作る紙吹雪。
 紙を千切る音さえ掻き消し、ナナミ自身の姿だけでなく声さえも埋めてしまう程の膨大
な想いの結晶だ。それが紙の姿を借りて、空間ごと奪い、強く意味を主張している。
「絶対に、約束、して下さい」
 最後の一枚をゆっくりと破ると、高く広くそれを散らした。
「最後まで、私の隣に居て下さると」
 実際に涙は出ないのだが、それでも泣きそうな顔をして僕に抱きついてくる。
「約束、して、下さい」
 一途な感情によって作られた勢いは強く、ナナミを抱き止めて慣性のまま倒れ込んだ。
紙吹雪がクッションとなり、痛くはなかった。衝撃で舞い上がる紙の欠片を見て、綺麗だ
と場違いなことを思ってしまう。いや、案外場違いでもないのだろうか。この紙屑が綺麗
に見えるのは、ナナミが今まで大切に守ってきて、そして気持ちを込めて使われたものの
欠片だという理由なのだから。
「約束する、絶対に……」
 軽音。
 言葉を遮るように発せられた音の方向を見ると、先程まで券が入っていた段ボール箱が
床に落ちていた。どうやら二人が倒れたときの衝撃でテーブルから落下したらしい。
 不意に、白い色が目に入ってきた。茶色い底の中、少し浮いた色を持つその紙は空気に
ひらめきながら箱の外へと出ていった。よく見てみれば、その紙はどうやら奥に挟まって
いたらしい奴隷券だ。感情が走っていたせいなのだろう、珍しいことにうっかり見逃して
しまっていたらしい。ナナミは僕の視線に気付いたらしく、素早く券を手に取った。
「使うか?」
 それに指先をかけ、しかし千切ることなく動きを止める。
「これも何か意味があるのでしょう。今は使わずに取っておきます」
 そう言うと、ナナミは笑みを浮かべて僕の胸に顔を埋めた。
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