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『甘獄と青』Take22

「お兄ちゃん、早く帰ってきてね?」
「……お土産、忘れないで」
 ユンとリーの頭を撫でると、立ち上がる。
 昨日の天気予報で言っていた通りに天気は快晴で、寒さを運んでくる秋風も強くない。
こういう言い方はおかしい気がするが、まさに絶好の決着日和だ。全てが終わるには丁度
良い日が晴れか雨かは分からないが、少なくとも僕にはそう思えた。
 隣に立つナナミを見ると、二人に様々な注意をしている。火を勝手に使うなだとか昼飯
の作り置きの場所だとか、普段から言っているようなことだ。これから大事なことをしに
行くというのに、その対応は普通の留守番のときと変わらない。随分所帯じみた決意だと
思うが、僕ならば最後まできちんと締めてくれると信じてくれているのだろう。
 約束もしたことだし。
「どうされたのですか?」
 部屋の奥に引っ込んでゆく二人を見届けながら、訊いてきた。
「いや、本当に母親みたいだなって」
 僕には母にそうされた記憶が無いけれど、普通の家庭ではよくある光景だ。今のナナミ
の姿は、服装を除けば侍女と言うよりも母親と言った方がしっくりくる。拾ってきた頃は
二人を侍女にすると言っていたのに、今の扱いではまるで娘のようである。ナナミ自身も
それに気付いているのだろうが、それでも態度を変えることなく微笑を浮かべていた。
 さて、そろそろ時間だ。
 僕はナナミを抱き締める。
「最後まで、頑張ろう」
 この抱擁も別れの為ではなく、決意を再確認する為のもの。腕の中にある大切な存在が
離れていってしまわないように、在り方を確認する為のものだ。唇を重ね、笑みを交す。
 電子音。
 来客のようだが、今日は無理だ。これからサラさんの場所へ行かなければならないし、
それが終わったらユンとリーも含め、四人で過ごすつもりなのだから。
 玄関のドアを開くと、小さな陰が見えた。
「リサちゃん?」
 僕の腹より少し低い位置、金色の髪が風になびいている。
『ソノ方ハ誰デショウカ?』
 どうやら人違いだったようだ。戻ってきてくれたのかと
一瞬期待してしまい、この人には悪いが落胆した。リサちゃんが戻り、サラさんも戻って
以前の生活をする。そんな甘い幻想は、まだ僕の中に残っているらしい。
 彼女が低い位置から見上げてきたことにより、首が見えた。首輪は填っておらず、瞳に
あるのは無機質な光。どうやら機械人形らしく、先程の妙な発音の理由も納得がいった。
 しかし何の用だろうか。
 腕には小さな体に不釣り合いな巨大な荷物を抱えているが、そんなものを頼んだ覚えは
ない。ナナミも不思議そうな顔をしているので違うだろうし、ユンとリーはそもそも幼い
ので保護者の同意無しに通信販売をすることは出来ない。役所からの遣いだということも
考えたがナナミの修復届けは出しているし、よく観察してみれば管理局の機械人形が義務
で着けているカフスも無い。一体、どこの誰だろうか。
『青様デイラッシャイマスカ?』
「そうだけど、君は?」
 荷物を抱えながら彼女は器用に一礼、
『申シ遅レマシタ。私ハゆかりトイウ者デス』
 ユカリ。どこかで聞いたことのある名前だが、思い出せない。
『オ母サンノ、さら様ノ遣デヤッテ来マシタ』
 そうだ、サラさんの世話を引き受けているという機械人形だ。以前ナナミを見て、よく
似ていると言っていた。機械人形という理由だけでなく、確かに似ている部分がある。
『青様、個人的ナ質問デ申シ訳無イノデスガ、一ツ訊ネテモ宜シイデショウカ?』
「どうぞ」
『さら様ヲ殺ス覚悟ハゴザイマスカ?』
 いきなりの核心を突いた質問に、僕は言葉を失った。
 殺すということは、完全に存在を切り捨てるということだ。
 沈黙。
『ソウデスカ』
 ユカリが俯いて包みをほどくのと同時に、ナナミは彼女を蹴り飛ばした。
 轟音。
 ドアを破砕しながらユカリは外へと吹き飛んでゆく。
「何してんだ!?」
「青様、伏せて下さい」
 ナナミはパイルバンカーを掴むと跳躍、一瞬後にはその空間を黒い杭が通過していた。
色は違うものの形や長さには見覚えがある、これはパイルバンカーで撃たれたものだ。
 黒杭は僕の頭上を抜けて通り過ぎ、奥の壁をも破壊貫通して飛んでいった。慌てて家の
奥を確認すると、ユンとリーが脅えたような表情でこちらの様子を窺っている。辛うじて
怪我が無かったことが、唯一の幸運だろう。しかし公園での大参事を思い出したらしく、
二人の小さな体は震えていた。目には涙さえ浮かんでいる。
「どういうことだ!!」
 視線を前方に向けると、二発目を撃とうとパイルバンカーを構えているユカリが見える。
先程まで無機質だった瞳にあるのは明確な敵意、殺意と言っても良いものだ。実際、彼女
は僕を殺すつもりなのだろう。案内役だと思っていたのに、意味が分からない。
『さら様ハ覚悟ヲ決メテオラレマスガ、貴方ハドウナノデスカ?』
「僕だって、決めている」
『ナラ、殺セマスカ?』
 ユカリはナナミが撃った白杭を一振りで弾き飛ばすと、黒杭の石突きで打撃した。衝撃
に倒れ伏したナナミの背を踏みつけ、眉を立ててこちらを睨みつけてくる。身長1mにも
達しない子供のような体駆から、怪物のような巨大な威圧感を発していた。
『今マデ長イ時間、さら様ハ独リデシタ。ソレヲ破ッタ貴方ハ称賛デキマスガ、再ビ孤独
ヲ与エタノモ貴方ナノデス。世界ヲ破壊スル悪役ノ覚悟ヲ、殺スコトガデキマスカ?』
 殺す?
『蜜ノ味ヲ知ッタさら様ハ、孤独二泣イテイマス。ソレヲ、貴方ノ手デ楽二デキマスカ?』
 抵抗するナナミの頭を踏みにじり、静かな声で語りかけてくる。抑揚も少なく平静な声
に聞こえるが、その奥には煮えたぎる強い感情が見えた。敵意の具現である黒杭の先端は
震えていて、今にも飛んできそうな雰囲気がある。
『答エナサイ!!』
 抑えが効かなくなってきたのか、とうとう怒鳴りだした。
 殺さなければならないのか。
 どうするかは、決めてあった。
 僕はナナミを選んだと、そう伝え、その意思を変えるつもりはないと示そうと。世界が
滅んだとしても、その意思が変わることはないとはっきりと言おうと思っていた。しかし
今のユカリの口ぶりでは、そんなことは関係がないといった様子だ。伝えてくるのは一重
にサラさんを想う心、例え主が死んだとしても心だけは守ろうという意思だ。
『何度裏切レバ気ガ済ムノデスカ!? 突キ放シ、殺シモシナイ!!』
「死ねば全てがおしまいだ!!」
『全テヲナクサナケレバ、全テガ壊レテシマイマス!!』
 それは違う、全てを無くした後に待っているのは悲しみだけだ。
 それは、僕が一番知っている。
 親に捨てられ、大切な恋人を無くし、孤独を抱えてここに入ってきた。生活が出来たと
しても、全てが消えてしまえば待っているのは地獄の苦しみだけだ。ナナミが居なかった
場合のことを考えると、サラさんの気持ちはよく分かる。しかし、全てを手放しても悪に
染まってはいけないのだと、そう思う。その線引きは自分の中にしか無いけれど、自分で
引くことは絶対にしてはならないのだから。
「だから、殺さない」
『モウ、良イデス』
 狙いを定めるようにユカリの目が細くなり、
『死二ナサイ』
 黒杭が、飛来する。
 直後。
「何をしてるんですか、貴方は?」
 聞こえてきたのは金属が噛み合う鈍い音と、懐かしい声。
「大丈夫ですか、青さん?」
 翻る金髪に、小柄な体に不釣り合いな長い両場の剣。
 綺麗な歌と踊りが得意な、姉思いの優しいソードダンサーが、そこに立っていた。
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