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ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE

 朝の教室は騒がしい。宿題やら部活やら、昨日のテレビやら放課後の予定やら、話題には事欠かない。
 だがここ数日は、ある一つの話題で持ちきりになっていた。
 予鈴が鳴っているにも拘らず話し続けている生徒も何人かおり、その表情は総じて深刻なものだ。
 入ってきた担任教師がファイルで教壇をバンバンと叩き、ようやく席へ戻っていった。

「高村と折原は今日も休みか。他には・・・・・・。
 ん? 奈良橋がいないな。誰か、何か聞いてるか?」

 ここ数日続いている2つ以外の空席を見つけた担任はクラス全体に呼びかけるが、返事は無い。
 後で自宅に電話を掛けるか、と呟いて一つ咳をすると、改まった様子で話し始めた。


「えー、皆も知っていると思うが・・・ここ数日、若い女性が立て続けに失踪する事件が起こっている。
 それも、この近辺ばかりでだ。
 警察は連続誘拐事件として捜査を続けているが、目立った進展は無く事件も相変わらず続いている。
 そこで・・・・・・今日から当分、学校は午前中のみとすることになった。
 部活動も委員会も、中止だ」

 一拍置いて告げられた担任の言葉に、教室が一斉にざわめき出す。担任の静止の声も中々届かない。
 大声で3度呼びかけてようやく静まり、再び担任が話し始める。

「とにかく、今この辺りは非常に危険な状況に置かれている。何が起こるかは、先生たちでも正直分からん。
 なので、次に挙げることを必ず守るようにして欲しい。
 1人で帰らないこと、不用意に出歩かないこと。特に女子生徒はこれを絶対に守るように。
 マスコミに何か聞かれても、余計なことは言わないこと。
 警察を刺激するような不審な言動を取らないこと。
 一時限目は職員会議なので自習とする。
 HRは以上だ。委員長、号令」

 HRが終わって担任が出て行くと、教室は途端に騒がしくなり始めた。
 話題は勿論、件の連続失踪事件について。
 真面目に自習に取り組もうという生徒は殆ど見られない。


 このところ多く話題に上っていた、あまりに長期に渡り休んでいる智と千早へのクラスメートの心配。
 そんな中起こったこの事件が、2人への彼らの関心を奪い去ることになっていた。


--------------------------------------------------------------------------------------------------

 奈良橋今日子が目を覚まして最初に感じたのは異臭だった。
 はっきりと覚醒するにつれ、異臭はより具体的な感覚―――腐臭となって纏わり付く。
 その臭いに顔を顰めながら、彼女はフラフラと立ち上がった。

「何よここ・・・。どうしてあたし、こんな所にいるの・・・?」

 キョロキョロと周りを見渡すが、真っ暗闇で何も見えない。だが、少なくとも見知った場所ではない気がした。
 しかも、今のボソリとした呟きさえ反響して聞こえるほどの、痛いくらいの静寂の空間。
 急激にこみ上げてきた恐怖を振り払うように、今日子は思考を順序立てていく。

「確かあたし、学校に向かう途中だったよね・・・。で、その途中で・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そこから先が思い出せない。
 ぶつ切りにしたように、すっぱりと記憶が途切れているのだ。
 自分に何があって今こうなっているか、まるで思い出せない。
 強いて言うなら、記憶が途切れる寸前、強い突風が吹きつけたような気がするくらいで―――。



「あら、目が覚めたみたいね」

 突然声が掛けられ、今日子の全身が露骨に強張る。
 バッ、と振り向くと、人影らしきものが見えた。
 向こうが近づいてくるのと目が闇に慣れてきたのが相まって、程なくして人影がその輪郭を現す。

 現れたのは女性だった。それも、破格の美貌を持った長身の女性。
 暗くてはっきりとは見えないが、雑誌やテレビで見たどんなモデルや芸能人も霞んで見えるほどの美人だった。
 何故か左手側の袖がゆらゆらと揺れているが、それさえもどことなく優雅な雰囲気を醸し出しているように見える。

「どうしたの? ぼーっとしちゃって、大丈夫?」

 笑顔で声を掛けられ、今日子はようやく我に返る。
 その表情の優しさに気を緩めた彼女は、目の前の女性に一番知りたいことを問いかけた。

「あの・・・ここはどこなんですか? あたし、どうしてこんなところにいるんでしょうか?」

 女性が自分にとって助けとなる存在だと微塵も疑ってない様子で、今日子が話しかける。
 しかし、返ってきたのは信じられない言葉だった。

「あなたがここに居るのは、私が攫ってきたからよ。生贄になってもらう為にね」

「い、いけにえ?」

 あまりに予想外の返答に、今日子は間の抜けた声でオウム返しをしてしまう。
 理解が追いつかない彼女をよそに、女性は鈴の鳴るような声で楽しそうに笑った。

「ええ。私の大事な人の為に、若い女の子の生き血がいっぱい要るの。
 こんなに沢山連れて来てるのに、まだ足りないのよ?」

 そう言って、何かを示すように手を広げた。
 それに倣って周囲を見渡した今日子は、足元に誰かが倒れているのを見つける。
 思わずしゃがみこみ―――強くなった腐臭に顔を歪めながら―――その顔を覗き込んで、悲鳴を上げた。



「きゃあああああああああああああああっ!?」

 顔を恐怖に歪めて後ずさる。だが、それも無理はないだろう。
 覗き込んだ顔は暗くても分かるほど土色で、水分を吸い尽くされたように干からび、明らかに死者のそれだったのだから。
 腐臭の原因も、この死体が発しているからに違いなかった。
 しゃがんだまま後ろ手に這って下がる今日子だが、その背中に何かが当たる。
 恐る恐る振り向いてみると、そこにあったのもまた、ミイラ化した女性の死体だった。

「いやぁっ・・・!!」

 腰が抜け、力が抜ける。
 ついでに気も失いそうになったが、幸か不幸か、意識はギリギリのところを辛うじて踏みとどまった。
 だが地面を這って動く程度の力も入らず、生殺しを待つ魚のように身動き一つ取れない。
 視点の低くなった今日子の目には、今しがたの2人と同じように倒れている人影がいくつも映っていた。
 見えているだけでざっと10人程度。誰もが同じようにミイラ化しており、纏う衣服も不自然にブカブカになっている。
 それらに劣らず青白くなっている今日子の様子に、女性が小さく笑う。
 その笑顔は先程までと同様優しいが、今となってはこの惨状にそぐわない微笑みがかえって恐ろしかった。

「大丈夫よ。最初はちょっとチクっとするかもしれないけど、すぐに気持ちよくなるわ。
 気持ちよくなりすぎて気を失う頃には全て終わってるから。
 痛いことも怖いことも、何もないから大丈夫よ」

 女性は純粋な笑みで―――純粋な狂気を纏った笑みで―――話しかけてくる。
 ここにきてようやく、今日子は自分がこれからどうなるかを認識した。
 不意に頭を過ぎるのは、ここ最近の女性連続失踪事件のこと。
 同時に、被害者の結末も悟った。


 殺されるのだ。
 ここに転がる多くの人間と同じように、ミイラにされて。
 生贄とは、そういうことなのだ。

「いや、いや・・・! やだっ、誰か、誰か助けて・・・!」

 何とか声を絞り出すも、その音は空間を空しく反響するだけ。
 今更のように気づくが、ここは廃工場のような場所だった。誰かが居るようなことは期待できない。
 小さく返る山彦が絶望を増幅しているように感じられ、今日子はそれ以上叫ぶことができなくなった。

「だから、私たちの為に死んで? 私と彼の為に、あなたの命をちょうだい」

 そう言ってあさっての方向を向いた女性は、先程までの愛想笑いではない、本当に優しい慈母の微笑を浮かべる。
 反射的にその視線を追って―――今日子は、精神に恐怖以外の感情が入り込むのを感じた。


「高村くんっ!? なんで・・・!?」

 クラスメートの高村智がそこにいた。
 部屋の隅にポツンと置かれた小さなベッド、その上で壁にもたれて力なく座っている。
 顔色が悪く、表情も苦しげだった。気絶しているのか、今日子の声にも反応しない。

 ずっと学校を休んでいた智がなぜこんなところにいるのか。
 千早はどうしたのか。まさか、ここに倒れている内の1人なのか。
 この女性は誰で、智と何の繋がりがあるのか。
 生贄が智の為とはどういう意味なのか。

「高村くん! 高村くんっ!」

 いくつもの疑問が浮かぶも、恐慌状態の精神に生じたそれらは今日子に更なる混乱をもたらしただけだった。
 脳内をグルグル回る言葉は何一つ形になってくれず、ただ智に呼びかけるしか出来ない。
 だがやはりと言うか、智は目を覚まさない。

 完全に脱力した智は、普段の様子からは想像出来ないほどに弱々しかった。
 常に千早を気に掛け守るように接する学校での姿は、頼もしいという印象さえあったというのに。
 そんな智が、手足をだらんと伸ばし、着衣を乱し、苦しそうな顔で、弱った病人のように無防備な身体を晒している。
 良く見ると整った顔立ちをしていることもあり、その儚げな様子はどこか倒錯的な色気を醸し出していた。
 自らが置かれた状況も忘れ、今日子は思わず智に見惚れる。
 だが、それも数瞬のことだった。



 バシュッ、と首から血を噴出して、今日子がその場に崩れ落ちる。
 いつの間にか今日子の傍らに立っていた女性が右腕を一閃し、今日子の頚動脈を掻っ切っていた。

「サトシに色目を使わないで。身の程を知りなさい、雌豚が」

 先程までと同一人物とは思えない声で、女性―――エルは、物言わぬ肉塊となった少女を冷たく見下ろす。
 智を見つめる少女の頬にほんのりと赤みが差した瞬間、頭が真っ白になって衝動的に腕を振るっていた。
 まさか智の知り合いだとは思わなかったが、殺したことに後悔は無い。
 大事な大事な自分だけの智を汚らわしい視線で侵そうとしたのだから、これは当然の報いだ。


 尚も流血を続ける今日子を片手で軽々と持ち上げ、エルはベッドへと歩いていく。
 ゴミでも捨てるようにその死体を無造作にベッド脇に放ると、智の首に腕を回して抱き寄せる。
 無抵抗にエルの胸に埋められたその身体は、血色が悪いだけでなく、幾分痩せ細っていた。

「んふふふふふ・・・。こうしてるとあったかいね、サトシ・・・」

 甘く蕩けた表情で、エルは智に頬擦りする。
 一分ほどその温もりを堪能し、名残惜しそうに顔を離した。

「じゃあ、今日のご飯ね。身の程知らずの雌豚だったっていうのが、ちょっと気に入らないけれど・・・」

 そう言って、傍らの今日子の死体を乱暴に引き寄せる。
 首筋に牙を突き立てて血を吸い、口にいっぱいに含むと、そのまま智に唇を重ねた。
 そのまま口移しで、智の喉に血を注ぎ込んでいく。

「んん・・・ぷはっ・・・。
 やっぱり・・・死んで少し経ってるから、精気が大分逃げちゃってる。
 ごめんねサトシ、我慢の出来ない女で。私、自分がこんなに嫉妬深いなんて思わなかったよ」

 エルが顔を離すと、2人の間に唾液の橋が掛かった。
 再び今日子の血を口に含み、唇を合わせる。

 幾度と無く繰り返される濃厚なキスに、いつしか智も目を覚ましていた。
 だが瞳は霞んだようにぼんやりとし、そこに明確な意思の光は見られない。
 それでも血を飲まされている事は分かるようで、エルが唇を重ねるたびに、親鳥に餌をねだる雛のように舌を伸ばす。
 エルもそれに応えようと舌を絡め、智をきつく抱きしめて離さない。


 冷たくなっていく今日子をよそに、2人ははしたなく音を立てて互いの唇を貪りあう。
 そのまま、どちらからともなくベッドに倒れ―――1時間も経つ頃には、エルは智の胸に身を預けて安らかな寝息を立てていた。
 隙間風が冷たい中で人肌の温もりを確かめるように、智は本能的にエルの身体を抱きすくめる。

「んんぅ・・・。サトシ、大好きよ・・・・・・」

 聞くだけで眠気を誘うような、幸せそうなエルの寝言。
 それにつられるように、智も瞼を閉じていく。

 その瞳からは、一筋の涙が流れ落ちていた。
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