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魔女の逆襲第13話 ◆oEsZ2QR/bg

 ベッドの上で早百合の意識が覚醒する。今日何度目かの目覚めだ。
 いつも見ていた天井。点けっぱなしのままだった蛍光灯が光っている。
「……疲れた」
 今日は感情が高ぶるごとに何もすることができず、そのまま自分のベッドに横たわるの繰り返し。寝すぎだ。夜は眠られないかもしれない。
「……もう喉は痛くないけど……」
 風邪もすっかり完治しているようだ。体全体が重く感じているのはただ単にずっと寝ていたためだろう。
 携帯電話で時刻を確認すると午後七時。窓の外は暗く、夜の帳が空を覆っていた。
 さらにディスプレイには新着メールが届いている。開くと、送信元は母親だった。早く帰るつもりだったが予定以上に仕事が伸びてしまったらしく、帰るのは午後10時過ぎになるという。なんともタイミングの悪い。
 そのままメールには謝罪の文や言い訳が20行にわたって続いていたが、そこは無視すると早百合は自分の携帯電話を閉じてベッドに置いた。
 考えてみれば早百合は今日は雑炊しか食べてなかった。ぐぅぅうと早百合のおなかから鳴る低い音。独特の胃がしぼむような空腹感。
「ラーメンでも食べよ」
 台所の戸棚の奥にチキンラーメンがまだ残っていたことを思い出す。早百合はチキンラーメンに卵を入れて食べるのが好きだった。ちなみに湯だけでCMのように玉子を白く作るには生卵をいったん常温に戻してから入れるのがポイントである。
 早百合はベッドから立ち上がるとぼさぼさあたまを軽く押さえながら伸びをした。んんんっと声が漏れる。背筋が延びる感覚が気持ちいい。
「ん?」
 と、そのとき。視界の端になにか色とりどりなものが置かれている事に気付いた。
 そちらの方向へ視線を動かしてみる。ちょうど、部屋にはいってすぐのところにそれは置かれてあった。
「フルーツ?」
 色とりどりのフルーツがたくさん入った籠があった。
 林檎やメロン、マンゴーやキウイ、スターフルーツまで。どれもが綺麗でみずみずしい輝きを持っていた。特に林檎なんてピカピカに赤くて、見ているだけでかじりつきたくなる。
 どれもが、そこらの販売店で売っているような安いものとは一線をかす、高級フルーツばかりだった。
「なんで、こんなものがここに?」
 早百合は近づいて、籠を持ってみる。籠は綺麗にラッピングされていた。
 こんなものを買った覚えは無い。じゃあ母親が買ってきただろうか? いや、母親はこんなフルーツを差し入れるような気遣いはしない。それにここにある果物は全て高級品だ。そこまでこだわってくれないだろう。
 早百合が籠を片手に一人考えてると。
 ぎしぃぎしぃぎしぃぎしぃ。
 誰かが階段を上る音がする。
 母親だろうか。いや、違う。母親はもうすこし乱暴に昇ってくる。それこそ一段昇るごとに家全体を揺るがすように。
 では良樹? ……違う。良樹が来るわけがない。あんな行動をして来てくれるわけ無い。
「いや、でも万が一……」
 万が一。もしかしたら、本当に良樹が来たのかもしれない。
 早百合の心情を理解して、追い出されたにもかかわらず無茶を承知でもういちど来てくれたのだとしたら……。
「良樹?」
 立ち上がってドアノブをつかむ。
 良樹に謝りたい。
 何故自分があんなに怒っていたのか、あんなに嫌ってしまったのかどう説明できるかわからないけど。早百合は良樹に謝りたかった。
 部屋のドアを開ける。すぐに階段から昇ってきた人影を見据えた。
 そこに居た人影は。
「おっ。おっおっ。 起きたか。鞠田早百合。起こす手間が省けたな。おはようっ。 そしてこんばんわ、だ」
 体操服の上にエプロンをした紅行院しずるだった。

 りぃん

 早百合が家で簀巻きになったまま眠りについていた今日の午前11時ごろである。
季節柄の風邪の被害を受けたある教師の有給消費のせいで、良樹たちのクラスの授業が一時間ほど自習へと変化した。
担任が委員長にいくつかの問題集プリントを渡して、退室。それから15分たったぐらいのころ。
教室にはまともにプリントをやるものはおらず、テスト勉強をしているもの、惰眠をむさぼっているもの、友人とおしゃべりしているもの、携帯電話で株取引をしているもの、右ひじに違和感を覚える野茂など思い思いの行動をとっていた。
ただ、あんまり騒ぎすぎると隣のクラスで授業をしている数学教師がブチギレて教室に乱入し本来は化学の時間なのに余弦定理の問題を解くことを強要してくるため、クラスメイト全員はそれなりの節度を持って騒いでいた。
良樹は友人であるねねこ・恒・三郎・さやからと大富豪をやっていた。
「よーし、これで決めるよ! キングの2枚出し!」
「甘い。ジョーカーとエースで2枚出し」
「え」
「流すぞ。ねねこはあと一枚だよな。じゃあここで『ずっと俺のターン』宣言。6のダブル。4のダブル。3のダブル、最後に5で終了だ」
「ふぇっっ。またあたし大貧みぃん!?」
 最後の三郎とねねこの一騎打ちはねねこの切り札が見事に外れた形で決着した。これでねねこ、四度目の大貧民である。
「ねねこは7とか8とかのカードの使い方が悪いのよ。あたしが後からアドバイスしてあげようか?」
 さやかがふふんと鼻で笑うようにねねこに言う。それがまたねねこの神経を逆なでしたようだ。ねねこはさらにムキになる。
「さやちゃんは黙ってて! もう一戦やるよ!」
「はいはい」
 平民の良樹はトランプカードを集めると器用にシャッフルする。本来は大貧民であるねねこがシャッフルして配るべきなのだが、ねねこにやらせると二回に一回は失敗して床にばら撒くので、ディーラーはもっぱら良樹の役目だった。
「カードこいカードこいカードこい……」
 ねねこは念力で絵札を集めようとしていた。
「そんなんでいいカード来るのか?」
「うんっ! こうやって念じるといいカードが来る気がするの!」
「来ないよ」
「来るよ!」
「なんで、自信満々なんだよ」
 良樹は苦笑して、カードを人数分に配り分けた。小さな札の束が五つテーブルに並ぶ。
「ねねこ、好きなのとっていいよ」
 ねねこに配慮して良樹が言う。といってもあんまり意味が無い行為なのだが。
「よーし……。じゃあこれ!」
 ねねこは大富豪であるさやかの前に置かれた札束をとった。とりあえず運にあやかりたかったようだ。
 全員が札を取る。良樹の札は7と8と10の特殊ルールの札が二枚づつ揃った、なかなかトリッキィな手札だった。特殊ルールとは7渡し、8切り、10捨てである。
 対するねねこはどうだろう。
「うっふふふふふっ……」
 ねねこはニヤけていた。
「にゃにゃっ! まさかねねこ。ついに最強のデッキを完成させたのかにゃ!?」
「デッキってなんだ」
 恒は大げさなように驚いてみせ、それに三郎が冷静なつっこみをいれる。
「うふふっ。今回はすごいよ! 強いカード二枚あげちゃっても平気だもんねー!」
 そういうとねねこは大富豪であるさやかと強いカードを二枚交換する。先ほどまで、カードを渡すたびに「あたしのジョーカーがぁ~」と泣きそうだったのだが(しかもバラすという珍プレィ)、今回に限って自信満々な態度である。
「やばいわね。今回はねねこに負けちゃうかもしれないわ」
 そして、さやかもそういうこというもんだから、
「ふふんだ! これでさやちゃんを都落ちさせるよ!」
 ねねこはもっと調子に乗る。
 いつもならこの後、すぐに足元を掬われねねこが5度目の大富豪となるのがお決まりのパターンなのだが。
今日は違った。闖入者が現れたのである。特有のガラガラというでかい音を鳴らして、教室の戸が開かれる。
 全員の喧騒が静寂し、戸に視線が集中する。
「失礼するよ。諸君」
 全員が我が目を疑った。
 てっきり隣のクラスの数学教師がキレて入ってきたのかと思ったのだが……。はなたれる声は美女の綺麗なハスキーボイス。
 教室に入ってきたのは、体操服にスクール水着といういでだちの魔女こと、紅行院しずるだった。
「なんだなんだ。いっせいにこちらに注目して。そんなに見ても私の服は透けんぞ? 連打しても無駄だからな」
 魔女は自分に集まる注目を見据えて、からからと笑う。
 クラスメイト全員が全員固まっていた。
 何故、このクラスに魔女が?
「ほぇ……。魔女さんだ……」
 ねねこは呆然とした顔で呟いた。ぱらぱらと手から落ちる手札。キング4枚とあとは3や4のカード。
 恋人である良樹も呆然としていた。

 魔女はめったなことでは教室へ入らない。授業なんてほとんど出たためしがない。しかし、学校へは毎日といっていいほどやってくる。そしていつも学校中を徘徊している。
 魔女の姿が目撃されるのは大抵休み時間や放課後など、生徒たちが自由に移動できる時間である。しかも、目撃されるときは「どこどこを歩いていた」「擦れ違った」など何の目的かもわからない。
 時には雰囲気につられて話しかけるものも居る。とくにあの美貌だ。容姿だけ見て話しかける者も数多い。
 しかし、ほとんどの者らは魔女の素っ気無い態度、もしくはまるで人をおかしな物に例えたような言動。そして魔女の何を根拠かにしているのかわからない行動。
 相対した者たちは皆宇宙人と喋ってると思ってしまう。というか、学校中の生徒たちは魔女のことを宇宙人とほぼ同等の存在と思っていた。見える幽霊、存在する異星人。という具合である。
 良樹や早百合の場合は少し違う。良樹と早百合と話すときは魔女が積極的に話題を合わせているからに過ぎない。普段の魔女は誰ともコミュニケーションをとろうとしないのだ。
 嘘か本当か混同した噂が飛び交い、もはや今の学校に誰一人として彼女と関わろうとするものはいない。生徒たちがすることは奇異の視線で彼女を観察するだけであった。

 そんな状況の中。
「な……なにしにきたんですかっ?」
 恐る恐るながらも魔女に対等から話しかけた学級委員長の駒木愛華の勇気は敬意に値するだろう。さすが、普段から「いいんちょう」と呼ばれているだけある。関係ないが。
「君がこのクラスのツンデレメガネかい?」
「は?」
 クラスのわかる人だけわかる一部の生徒が噴き出しそうになった顔を慌てて隠した。
 まさに駒木愛華の容姿は丸いメガネと緩いおさげ。で、性格は強気で真面目で意外と照れ屋という絶妙なキャラだったからだ。ロリが居て委員長が居てなんだこのクラス。
「ああ、いやいや。君がこのクラスの委員長かい?」
 魔女の頭の中には委員長=ツンデレメガネという公式があるらしい。どこのゲームだ。
「そ……そうですけどっ。 授業中になんですか!? 紅行院さん」
「おおっ、君は私の名前を知ってくれてるのか。魔女としか呼ばない若者が増えたなか珍しい子だな。さすがだ、ツンデレメガネ」
「私はツンデレメガネではなく『こまきまなか』です!」
「愛華でまなかと読むのか、紛らわしいな。君はツンデレメガネで十分だ」
「わけわかんないこと言わないでください!」
 上から見られているようで駒木愛華はイライラした様子だった。
しかし、魔女から話しかけられて告白された良樹にはわかっていた。あれは魔女が精一杯コミュニケーションしようとしているんだと。
「用が無いなら出てってくれませんか? 自習の邪魔です!」
「まて、ツンデレメガネに聞きたい。このクラスに鞠田早百合という女子はいるか? 確かこのクラスだったと思うのだが……」
 鞠田早百合の名前が出て、クラスメイトたちの姿が揺れる。魔女の口から早百合の名前が出るとは誰も思わなかった。
「ま……鞠田さんはいませんっ。今日は風邪でお休みですっ」
 駒木愛華も突然、早百合の名前が出て驚く。が、すぐに持ち直し、突っぱねるように返した。
「そうか。風邪で休みか。それならお見舞いに行かねばなるまいなぁ……」
 魔女はそう呟くと、視線を上にあげて考えるように腕を組んだ。もう駒木愛華には興味は無いといった風にぼそぼそと何かを呟いている。
生徒達なぞ完全無視で教室の教壇の前で立ちっぱなしのまま。クラスの生徒にとってはその時間中もずっと緊張しっぱなしだ。
「やはり定番といえばフルーツか……。最高級のフルーツを用意しなければ……だとしたら隣町のスーパーに行かなくては」
「すいません。用が済んだら出てってくれますか?」
 真面目な駒木愛華にとっては不真面目な魔女と根本的にからそりが合わないのかもしれない。言葉の端々にとげとげしさが感じられる。しかし、魔女はそんな言葉にも反応せずに考え込んでいる。
 と、ずっとしずるを見ていた良樹に、魔女が気付いた。良樹の姿を視線に捉えたしずるは、良樹にだけわかるような顔でにやりと笑う。
 セミロングの黒髪を右手で翻す。綺麗な髪の毛がぱさりと波うって流れた。その行動ひとつひとつに駒木愛華やクラスメイトたちは反応していた。
「ところで、ツンデレメガネ。君には好きな人はいるのか?」
 上を向いてどこ吹く風だった魔女の目が突然視線を落とし、駒木愛華の瞳を正面から捕らえた。
「え」

 突然の質問とその内容に生徒たちの目がさらに点となる。
「な……なななななな?」
「好きな人はいるのかと訊いているんだよ。ツンデレメガネ」
 魔女は涼しげな顔だが、対面している駒木愛華の顔が突然真っ赤になった。
「どうなのだ? 好きな人はいるのか? ちょっとおねいさんに聞かせてみろ」
「な……なにいきなりゆーてはるんですかっ! そなことあんさんに関係ないやろがぁ!」
 駒木愛華は焦ったり興奮したりすると地の関西弁が出るのであった。そして、それを見て勘の良い者は「あ。いるんだ」と察っした。
「なんだ。いないのか」
「おらんわ!」
「ムキになって否定する。その様子だと実は居るな」
「おらんゆうとるやろ!」
「二人とも好き?」
「なんでわて、二股してんねん! 好きな人は一人だけや! ……あっ」
「ほら、居た」
「うわぁぁぁぁぁぁ! こげな初歩的な誘導尋問に引っかかるなんてぇぇぇ!」
 完全に魔女のペースにはまってしまった駒木愛華。しかも、好きな人が居ることをバラしてしまった。後日、駒木愛華はねねこにしつこいほど好きな人について訊かれる事になる。
「にゃにゃー。あのいいんちょが押されてるにゃ!」
「しかし、魔女も何をいきなり言い出すんだろうな。好きな人はいるかって……」
「別に魔女の言うことだから。無視よ無視」
 恒がポリポリと頭を掻いて魔女と駒木愛華の漫才チックなやり取りを実況している。三郎もやり取りを冷静に見て、言葉を漏らした。さやかは興味なさそうにやり取りを眺めていた。
その様子を横目で見ながら良樹は内心ハラハラしていた。
 しずるが良樹に見せた笑顔。あれはしずるがちょうどいい悪戯を思いついたときに浮かべる微笑だったからだ。
「ふふふ。君も好きな人は居るんだな。告白はしたのか?」
「ちがうゆぅとるやろがぁ。 もうわてのことはほっとけやぁ!」
「告白はしたのか?」
「する度胸がないんや!」
 駒木愛華はもうやけくそだった。何聞かれても丸々答えてしまっている。
「なんだ、告白する度胸がないとは。恋に臆病な人間なのだね。君には当たって砕ける精神はないのかい?」
「それを言うなら『砕けろ』や! 『砕ける』じゃあ告白失敗しとるやないか!」
 もう完全に漫才であった。駒木愛華が若干涙目になっているのはかわいそうだが。
「君は私を見習うといい。私は始めてきた教室でもこのように躊躇なく入れるのだぞ。度胸があるからだ。君も度胸を持って告白するべきだ」
「うるさいわ! だいいち、告白するのと教室にはいるのとはまったくちゃうわ! 告白なんてしたこと無いあんさんなんかにはわからんやろうがなっ」
「何を言う。私はつい先日、勇気を持って告白したんだぞ。好きになった男にな」
 げっ。良樹の額から汗が流れ始めた。魔女はもしかしたら。もしかしたら……。
「なにゆーて……、ちょいまて。告白? あんさんが?」
 委員長駒木愛華は興奮してたが優秀だった。てっきり勢いに任せて流すかと思われた魔女の言葉のある単語に反応して聞き返す。
 ヤバイ。
 体中の温度がどんどんさがってゆく感覚。汗がだらだらとあふれ出す。
良樹はしずると付き合っていることを早百合以外の人間には誰にもバラしてなかった。良樹にとってはしずると付き合っているということは、芸能人と付き合っていると同じぐらいの感覚なのである。
 それゆえ魔女と付き合っているということはあんまり注目されることが苦手な良樹には秘密にしておきたかった事実であった。
だからこそ信頼できる早百合以外には誰にも話すことなく黙っていたのである。
 が、芸能人は自分がどれぐらい影響力を持っているのかわかってないものが多い。
「ああ。告白したよ。いま現在付き合っていてラブラブラブラブラブラブラブラブラヴィだ。はぐはぐもキスもしたぞ」
 良樹の恋人こと魔女は涼しい顔で堂々と答えた。
 駒木愛華ははとが豆鉄砲食らったような顔になった。そして数秒。クラス中に衝撃が走った。
「なにぃぃぃ!?」
「えええええ!?」
「なんと、まぁ……」
 良樹の横で目を丸くする
「ま…魔女に恋人!?」
「衝撃事実にゃ!」
 もしここで普通のクラスだったら魔女の衝撃告白だけで全員が驚いてそれ以上誰も詳細には突っ込まなかったであろう。魔女と付き合っているのは良樹だと言うことはバレなかったであろう。
 が、良樹のクラスはかなり特殊な人間が集まっていた。そして運が悪いことに、その中には特に人の恋愛事情に首を突っ込みたがるあの女の子が居たのだった。
「ね……ねぇねぇ! 魔女さんっ」
 そう、ロリ姉ことねねこである。良樹たちの机からいつのまにか魔女の目の前まで行っていた。
 あんまり魔女についての噂を聞いたことがなかったねねこは魔女への警戒心がかなり薄かった。故に魔女に堂々と質問をすることができたのである。
「なんだね?」
 しずるが視線を落としてねねこを見る。ねねこの瞳はキラキラと輝いていた。
「その、告白した人って誰!?」
 うわわぁぁぁ。
 良樹は確信した。バレると。
 魔女はにやりとわらう。体操服とスクール水着というエキセントリックな組み合わせの格好だが、ニヤリと笑う姿は悪魔のようであった。
「告白した人が聞きたいのかぃ? ロリロリちゃん」
「うんっ! 誰? 誰なの?」
 普段なら『小さい』『ロリ』『小学生』『発展途上』『おまる』などの言葉には過剰反応するねねこだったが、今回に限っては好奇心のほうが強かったようだ。
 良樹のすぐ横で恒とさやかと三郎が、親指を立ててねねこにグッジョブを送っている。「よくぞ訊いた!」という表情だ。反対に良樹はドキドキである。
「好きな人はあんまり人に教えるものではないと聞いているが」
「じゃあ、ヒント! ヒントは?」
「ヒントか。よし、教えてあげよう。このクラスの中に居るぞ。男の子だ」
 クラス中にまたもや衝撃はしった。
 クラス中の男たちが全員が全員お互いの顔を見合わせる。
「にゃにぃ? まさか三郎君か!?」
「違う。恒じゃねぇよな…」
「レズパターンで早百合かと思ったけど……それは違うわね。男だと断言してるし……」
 良樹の汗だらだらの状態には気付かず、恒たちは勝手に恋人探しを探している。
 そこでやめときゃいいのに、ねねこはさらにヒントを求めた。
「まだ、ヒントちょうだい! ヒントヒント!」
「さらにヒントか。うーん……そうだな。メイド服は青と白より黒と白のほうが好きな奴だ」
 そこで恒が良樹の方を向く。
「まさか、良樹にゃ……?」
 ぶわっ。汗が一気に出た。良樹の喉はからからだ。
 というかなんでメイド服の好みで僕だとわかるんだよ、空稲恒! 何者だお前は!
「ちちち、違うよ! そんなわけないじゃないか!」
「うーん、そうかにゃ……。まぁ良樹が魔女と付き合うなんてあるわけは無いんだけど……」
 良樹は慌てて否定する。恒もあまり確信が持ててないようで、すぐに良樹の否定を飲み込んだ。
「もっとない? ヒント!」
「いや、ヒントはここまでだな」
 魔女はねねこの頭をなでるとかははと笑った。
「ええっ。もっとヒントちょうだいよぉ!」
「ふふふ、あんまり欲しがりさんになったら将来いい女になれないぞ? ここからさきは自分で考えるんだ。ロリィタちゃん」
「ええー……」
 そういうと魔女はくるりと反転し、そのまま何事も無かったの用に自分が入ってきた戸へ向かう。
「ちょ……ちょっと! どこ行くんですか!」
 衝撃発言にぼぉっとしていたが、ようやく我に返った駒木愛華が退室しようとする魔女に叫ぶ。しかし、魔女は振り返ると先ほどまでのニヤニヤ顔は失せて、いつもの興味なさげな顔に戻っていた。
「今は自習の時間なのだろう? 邪魔者は死なずただ消え去るのみ。更新はされずただ放置するのみ」
 そう言うと魔女は左手で引き戸を開けた。ガラリガラリと独特の小うるさい開く音。
 良樹は安堵していた。魔女のあの笑顔を見て不安だったが、魔女はかなりヤバイところまではバラしたが特定はやめてくれた。最終的にはこの発言も噂として結局うやむやになるに違いない。
 はぁぁ。息を吐く。握っていたトランプは汗にまみれて変形していた。
 魔女は教室を出ると、もう一度教室のほうを向いて戸をガラガラと閉めはじめた。そのまま全て閉まるかと思われたが……、最後に教室の中に顔だけを出して
「じゃあな、兼森良樹。ちゅぅ」
 最後にそう一言添えて………、ピシャリと引き戸が閉められた。
 ………。数秒の沈黙後。
 クラス中にかつて無いほどの衝撃が走った。これではもう答えを言ってしまったようなものである。
 全員の注目が良樹にあつまり、刹那、クラス中の人間が良樹の机に集結した。良樹の平穏な日々はこの瞬間に終わりを迎えた。
「どういうことにゃー!」「あんた、説明しなさい!」「ええええ!?」「どうやってゲットした!?」「うひー!」
 突然はじまるクラスメイトたちの質問攻め。
しかし、その直後。隣のクラスの数学教師が三角定規と三次関数の問題を持って教室へと怒号とともに入ってきた為、質問攻めが中断される。途端に沈黙し席へ戻るクラスメイト全員。
 良樹は生まれて初めてこの数学教師のことを尊敬した。
出された三次関数の問題は風雲たけし城を攻略するぐらい難しかったが。

「君が休みだと聞いたから、めいっぱい用意してお見舞いに来たわけだよ」
 学校で起こった良樹告白騒動について、早百合は魔女のこの一文だけしか説明されなかったのであった。
(続く)
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