FC2ブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://debumoja.blog90.fc2.com/tb.php/5-bbbda07c

-件のトラックバック

-件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

魔女の逆襲第8話 ◆oEsZ2QR/bg

りぃん。
りぃん。りぃん。

 夕暮れ。
遠くに伸びる早百合と良樹の影。
幼い早百合と良樹が手をつなぎ歩いていた。
「ほら、さゆりちゃん。もうすぐでおうちだよ」
「…うん。わかってる…」
「そろそろ泣き止んで。泣きながらおばさんに謝ったんじゃかっこわるいでしょ?」
「…うん」
 ぎゅっと手を握る。
 母親に謝りに帰る途中の道だった。
 いつも通っていたお地蔵さんの前を通る。腰の曲がったおばあちゃんが熱心にお地蔵さんの前で何かを拝んでいた。
「二人で謝れば、きっと許してくれるよ…」
「えぐっ…。一緒に謝るよね?」
「そう。一緒にだよ」
 ぎゅっと手が握られる。それだけで早百合の心の中は安堵感でいっぱいだった。この帰り道が永遠に続けばいいのに。
二人で歩く道は茜色に染まり、二人の影は長く伸びてコンクリートで固められた歩道に大きな姿を映した。
 涙を拭きながら歩く早百合と手をつなぎ励ましながら引っ張る良樹の姿。まるで微笑ましい兄妹ような姿。そう見えるだろう。
「…一緒…だもんね」
「うんっ」
早百合はようやく泣き止んだ顔を手でこすり、前を歩く良樹の姿を見た。青色のTシャツを着た良樹は早百合を引っ張って堂々とした様子で歩を進めている。
ちょっと前までは同じぐらいだった良樹の背丈も、成長期だからかみるみるうちに伸びてき、気が付けば早百合の身長を追い抜いていた。自分より少しづつ高くなってゆく良樹の後姿。
 いや、自分よりはるかに高い。瞬きをすればすほど良樹の背はどんどん高くなってゆく。
 良樹はどんどん変わってゆく。後姿の良樹はどんどんと大きくなっていき、握った手と指はがっしりと角ばってゆく。
 あっというまに小学生だった良樹の姿は、織姫高校の制服を着た高校生の良樹へと変化した。
「…よしきくん?」
 早百合は突然の良樹の成長に驚き、おもわず彼の名前を口にする。
 良樹の顔は見えない。ただ、早百合はこの成長した良樹の姿をなぜか知っていた。
 自分の小さな手を握り締める良樹。
手を話さなかったのは、いまこの手を離したら良樹が、もしくは自分の体が魂となって消えてしまいそうで怖かったからだ。
「さゆりちゃん。おうちについたよ…」
 良樹の声。口調…早百合への呼び方は幼少の良樹のままだが、その声はその姿相応に低い。
 着いた先は自分の家ではなく、なぜか良樹のマンションの前。良樹は早百合を手をつかんだまま、無言でそこで立ち止まる。
 急に早百合の感情の中に孤独感が溢れる。
「い…いっしょ……一緒だよ…? 一緒…」
 気が付けば早百合は傷ついたレコードのように「一緒」という言葉を繰り返していた。その言葉を言うたびに早百合の心の孤独感はカビのように黒く増えてゆく気がして、早百合はさらに恐怖する。
 早百合は返事を待っていた。今、良樹が振り向いて笑顔で「ああ、ずっと一緒だよ。早百合ちゃん」と肯定してくれれば、自分はどんなに楽になるだろうか。
 お願いだ。私を救ってください。
「兼森良樹」
 え?
 聞きなれた声が早百合の耳に響く。
 マンションの前、植え込みの傍から一人の少女が現れた。
 セミロングの伸びた髪で、首に巻いたペンギン柄のマフラーを風になびかせ、良樹に近づいてくる冬服の美少女。
 織姫高校の魔女こと、魔女っ子こと、紅行院しずるだった。
 なぜか小学生の早百合にもわかった。
 え? 何故こんなところにしずるさんが?
 不意に、良樹の手が離れた。握っていた左手が空を掴む。
良樹が早百合の手を振りほどいたのだ。振りほどき、しずるのそばへ走ってゆく。
「え…」
「やぁ、兼森良樹…」「しずるさんっ、どうしたんですか…こんなところで」「なにちょうど君と…」「そんな…」「…」「…」

握られた手が離れていたとき。ちょうど早百合が住む世界と、良樹の住む世界がきっぱりと別れたような気がした。
つないでいた手は唯一の通信手段。早百合の小学生の世界と良樹の現在の世界との架け橋。それが途切れた。
その瞬間、彼女の居た夕焼けの世界が崩壊を始めた。
「!」
電信柱はぐにゃりとひん曲がり、茜色の空はジグソゥパズルが崩れたように闇へばらばらになってゆく。鳥の鳴き声、車の雑音、すべてが音もなく消えてゆく。
「よしきくん! 助けて!!」
 早百合は目の前に居た良樹に助けを求めた。
 崩壊する世界は早百合の背後に迫り、早百合の視界までも奪ってゆく。
 しかし、目の前の良樹は気付かない。しずるもまるで早百合のことなど見えないかのように、二人は楽しく話している。二人の世界は明るく、そしてまぶしかった。
 対して早百合の世界はどんどんと闇に変化してゆく。この闇に飲まれると、二度と良樹と会えない。なぜかそう感じる。
「よしきくん! 助けて! 良樹! 私を一人にしないでよぉ!! いつも一緒だって約束したじゃないぃぃ! ひとりはいやぁぁぁぁ! よしきぃぃ! たすけてぇ! よしきぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 大声で叫ぶ早百合。必死で、切実で、そして奇声まじりの金切り声。
 それに気付かず談笑する良樹としずる。
 もはや彼女の切実な声など聞こえはしない。早百合の頭が完全に闇へととりこまれた。
 薄れゆく景色の中で、暗くなってゆく視界の中で、最後に早百合が見たのは

「んちゅぅ…」

 自分で擬音を出して、良樹と唇を重ねる魔女の姿だった。

 りぃんりぃぃん。

燕尾色の鈴が見せた夢は早百合の精神を大きく揺さぶっていた。
 鈴の音が響くたび、彼女の頭の隅にある忘れていた記憶を掘り起こされ、夢として早百合を責めたてる。
早百合は鈴が作り出した、想いの監獄に囚われていた。
無意識下に響く鈴の音。まるで早百合に何度も囁きかけているようだ。
しずると良樹が愛し合う姿をお前は本当に見たいのか、と
あの雌鴉に最愛の人物を奪われて良いのか、と。

 りぃぃん りぃぃん りぃんん
 りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん

「嫌な夢だわ…」
 ベッドの中で目が覚める。見えるのは変わらぬ天井。
 ぐっしょりと布団がぬれていた。寝汗が下着にくっついて気持ち悪い。
 早百合は体を起こそうとして、突然の頭痛に頭を抑えた。
「頭がぐらぐらする」
 もうすぐ、母親が起こしに来るだろう。
 起きて着替えなければ…。
 ふらふらの意識のままベッドから這い出し、パジャマを脱いだ。
 体は熱く、ふうふうと垂れる汗がべっとりと衣類を濡らしている。
 部屋のスタンドミラーの前に立つと、寝癖はぼさぼさ、目はとろんと下がり真っ赤な頬をした自分の姿が写った。
 とりあえず制服に着替えねば。パジャマを脱ぐ。そのまま畳まずくしゃくしゃのまま床へ。
同時に肌にくっついたブラジャーも脱ぐ。自分のお椀形の胸が露わになった。小ぶりに張ったおっぱい。あと数年すればこの色気の無い胸も小さいまま垂れてゆくのだろうか。
 濡れて青が蒼色になったショーツも脱ごうとして…、
「あれ?」
 スタンドミラーの前に自分の携帯電話が置かれていることに気付いた。
「……」
 こんなところに置いたっけ?
 床に置かれた自分のコバルトカラーの携帯電話。ストラップにはしずるからもらった鈴が付けられている。
 しずるは床に置かれた携帯電話を手に取った。りぃんと鳴る鈴。
「…」
 なにか不自然に早百合は感じた。
何気なく携帯電話を開いてみる。ディスプレイにペパーミント調の女の子のイラストが表示された。昨日、良樹とさやかに教えてもらいダウンロードした壁紙だ。(最初はねねこに聞いたのだが、パケ代を無駄にしただけだった)
 さらにその上にデジタルで時刻が表示される。
 午前10時15分。
「え? 午前10時15分って…!」
 今日は土曜でも日曜でもない。普通の平日だ。
「が…学校! やばい! 寝てる場合じゃない!」
 二時間目が終わりそうな時間っ。しまった、完璧に遅刻だ!
「お母さん! お母さん!」
 慌てて二階の自室から飛び出した。
 廊下に出ると、火照った体にひんやりとした風が当たる。
 階段をだんだんだんと音を立てながら下りて、台所へ。どうして起こしてくれなかったんだっ!
 一言母親に文句を言おうと、台所の入り口にかけられたすだれを開けて中に入る。
 台所には誰もいなかった。…そりゃそうだ。この時間は母親と父親は仕事に行っていていつもいない時間だ。ということはこの家にいるのは自分ひとり?
 慌てて自分の部屋から飛び出したからか、早百合は汗で濡れたショーツ一枚のままだった。まぁ誰も居ないし。体が熱くて裸のほうが涼めて気持ちがいいし。早百合は特に気にしない。
 ふと、台所のテーブルの上を見ると、小さな鍋と薬瓶がある。母親が100円ショップで買ってきた一人なべ用の小さい土鍋と市販の風邪薬だった。
中を開けると母の作ってくれた雑炊が入っていた。白菜とニンジンと米を白だしで炊いた簡単なもの。
別に家族ゲームの家庭のような家族じゃないから、こんな個人用の鍋家族で使うわけ無いと思っていたが、こういうときに使うのか。
 鍋とテーブルの間にメモ用紙が挟まっていた。いつも使う広告の裏の白い部分を短冊状にして再利用した母親特製の貧乏性メモだ。昔は早百合も手伝いで作ったことがある。
 メモには母の字で簡単に内容が書かれてあった。すでに学校に休みと連絡していたこと。雑炊は楽になったら自由に食べてもいいこと。母はいつもの時間には帰るということ。昼3時にやるドラマの再放送を覚えてたら録画してほしいこと。
 だんだんと記憶が定かになってくる。たしかに今日の朝、一度起きていた。朝食を食べようとしてたらだんだんと頭が熱っぽくなり……そこから意識が途切れている。眠った自分を母親が運んでくれたのか。
 なんだか、最近は昔のことを思い出したり忘れたりと記憶の反流が激しいような気がする。
「そっか…風邪かぁ…小学生のとき以来だわ…」
 なかなか自分が風邪だとは気付きにくいものだ。
 早百合は台所の流しで薬を飲んだ。熱い体に飛び散る水が冷たくて気持ちいい。
ぺたぺたとフローリングの床を歩き、そのままリビングへ。頭はくらくらしているが、一度起きたときよりだいぶ楽になっている。
 リビングに入る。そのまま新聞を見ようとしてコタツに入る。コタツの電源は切れていたが、まだ温もりが少々残っていて早百合の火照った体にはちょうどいい。
 コタツの上にあった毎日新聞を手に取った。一面トップにある芸人の写真。県知事に当選と書かれている。
「ふぅーん……東がねぇ…」
 特に何も感じない。
 早百合はコタツに体をつっこんでごろんと横になった。
 早百合の肌に直接当たるコタツ布団。裸で布団に入るのはこんな感じなのか。なかなか妙な感じだなと早百合はひとり呟いた。
 そこへ、眠気が襲ってくる。
 コタツで寝ると風邪を引く。母親から口をすっぱくされて言われていた早百合は、のそのそとコタツから這い出ると、リビングを出、階段を上り、自分の部屋のドアを開け、中へ。
 床に散乱し、くしゃくしゃになったパジャマをひろって着ようとしたが。
「あー…だるい。眠い…」
面倒くさくなって、ショーツ一枚のままベッドに倒れこんだ。早百合はそのまま羽毛布団を簀巻きのように体に巻く。
ベッドで芋虫のように丸くなると、早百合はまぶたを閉じて、一瞬で眠りについた。
りぃん。
 早百合の携帯電話に付けられた燕尾色の鈴が、静かに一度だけ鳴った。
 りぃん。

 織姫高校の自分の教室で、
 早百合は良樹たちの姿を眺めていた。しかし、見えるのは良樹やねねこ、さやか、恒、三郎、クラスメイト達の頭。
早百合は教室の様子を天井から眺めていたのだった。
 誤解しないようにしておくが、早百合が天井に張りつける芸当は持ってはいない。彼女は蝙蝠でもスパイダーマンでもエイリアンソルジャーでもゲンバリングボイでもない。
 早百合はまるで空を飛ぶかのように体が浮いて、天井から教室の様子を眺めていたのだ。幽体離脱で自分の体を眺めている状態…と思っていただければわかりやすいだろう。
「これは…夢…?」
 早百合はなぜか今見ているこの光景が夢だということを自覚することができた。
 クラスメイトたちは頭上に浮かぶ早百合に気付くことなく会話を続けている。

「良樹ぃ。お見舞いに行くのかにゃ?」と、恒。
「そうだよ」と、良樹がかえす。
 ここで、ねねこがにやにやしながら良樹を見て言う。
「良樹君がお見舞いに行ったら早百合ちゃんすぐ元気になるねっ」
「おおぅ! らぶらぶぱわーで風も吹き飛ぶのかにゃっ!?」と、恒。
「そうそう!」ねねこが笑いながら恒に言う。
 そこで、良樹。ねねこの頭をくしゃっとして、苦笑しながら言う。
「そんなんじゃないよ。今日の課題渡すついでみたいなもんだよっ」

「ついで…か…」
早百合は小さく呟く。まぁ、そうか。魔女という恋人がいる良樹に私に対するラブラブパワーなんてあるわけないしね…。

「ついでなの?」と、ねねこが不満そうに良樹に言う。
「みたいなものだって。それに、あいつとは…」

「「幼馴染」」

 早百合と良樹の言葉が重なった。
「幼馴染…か…」
 自分の自嘲するような呟きとともに彼女の意識はまた落ちていった。

りぃんりぃんりぃん。
(続く)
スポンサーサイト
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://debumoja.blog90.fc2.com/tb.php/5-bbbda07c

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。